感情をうまく扱える人が圧倒的有利な時代がくる


昨年後半に読んだ本の中で、一番面白いと思ったのはこちらです。

要約すると、AIが普及すると「24時間働いて人間よりも正確。そして複雑な意思決定も間違いなく行えるので、相当数の労働者がいらなくなる。そしてロボットを政府が規制しないと、人間が追いやられてしまい、超所得格差の暗い時代がやってくる」という話です。この手の話は、ディストピアSF小説などで、過去に多く書かれてきたと思うのですが、それがテクノロジーの進化に伴い、いよいよ現実化しているという本です。

自分が漠然と考えていたのに比べ、AIの浸透と進化は相当早いことを知りました。今後のおおまかなトレンドがサクッと頭に入るので、おすすめです。

さてここ数カ月、この本について思いをはせていたところで、正月ということもあり妻とのんびり「AIが進んでいった世の中で人間のほうが優れている点は、どんなものだろう」と長々と雑談したら、これがなかなか面白かったです。

人間のほうがAIロボットより優れている点

1.感情を取り扱う作業

何か同じことをしてくれたとしても、人間がやってくれるのと、ロボットがやってくれるのと有難みが違うのは、「人間が時間を割いて、思いを使って行動をしてくれた」ということ。相手の時間や労力を割いてもらっているからこそ、その行為が一層の価値があると感じられるのではないかと思うのです。

これが「床の掃除機掛け」だったら、ルンバでいいや、ということになりますが、複雑なこと、重要なことになると、人間のほうが納得感・満足感があります。

例えば、家族のいない人が末期がんでホスピスに入ったとします。そして、人恋しくなり「誰かに手を握って欲しい」と思ったときに、「人間に手を握ってもらう」のと、「ロボットに手を握ってもらう」のでは、人間のほうが満足感が高いと思うのです。それがたとえ、同じ感触、同じ温度であったとしても。

「あなたの貴重な時間を、私の手を握ることに割いてくれている」という感謝の念が、人間の行為に高い価値を与えているのだと思うのです。

もう一つの例をあげてみます。ステージ3の末期がんになったときに、「人間の医師に通知されたいか」「AIロボットに通知されたいか」というと、人間の医師を選ぶ人が多いのではないかと思います。

人間が通知したって、AIロボットが通知したって、結論は同じですが、多くの人は「自分の命は『ロボットごとき』が取り扱うものでない」と思っているのではないでしょうか。余命を意識させられる、という、大きく人の感情が揺れ動く瞬間には、ロボットではなく人間がいて欲しい、寄り添ってほしいと思うのはある意味当然、、、いや「当然」という共通認識があるからこそ、感情の取り扱いを人間が行うことに高い価値があるわけです。

2.指先を使う作業

これは、『仕事消滅』の中でも取り上げられていた内容です。指先を起用に使う作業は、まだ物理ロボットの技術が追い付いていないので意外に難しいという話です。

感情をうまく取り扱える人が圧倒的有利な時代がくる

妻と意見が一致したのは「これまでにないほど、感情を取り扱える人が有利な時代が来るのではないか」という点です。正確に作業する、複雑なものを取り扱う、ミスをしない、といった点の多くで、AIが人間に負けた後で残るのは、「人間が、人間の感情をうまく取り扱って満足させる」という点ではないかと思うのです。

JPモルガンでは、締結前の契約書類の確認をAIで行った結果、相当数の弁護士とパラリーガルが不要になった、というニュースがありました。このように、企業法務において、正確に作業する、複雑なものを取り扱う、ミスをしないという点では人間は負けています。

ただ、これが離婚訴訟弁護士になったらどうでしょうか。動揺している依頼人をなだめ、目を見据えて話を聞き、深く共感し、その結果として仕事を受注するのだと思います。法律業務がAIによりコモディティ化されると、正確さ、複雑さへの対応、ミスの少なさといった点では、大手弁護士事務所のスーパー弁護士も、街の弁護士も差はなくなります。企業法務は一般的に、感情を取り扱う場ではないので、AIで足りるとなれば、弁護士の企業法務市場が縮小するでしょう。そうなると、法律家としての腕よりも、依頼人の感情をうまく扱えるかどうかがとにかく重要になるのだと推測します。

もちろん、法律分野だけでなくほとんど全ての分野でそうなります。「あなたの仕事は誰でもできます。AIにより技能さもありません。しかし、あなたと話をするのが楽しいので、あなたと話しているとよくわかってもらえている感があるので、あなたに発注します」という流れが強まるのではないでしょうか。

この変化は1,2年ではやってきませんが、5年10年のスパンではかなりの分野で変化が見られることを考えると、自分も感情を伴うコミュニケーション力をいかに高めるかについて学習・訓練すべきと思いました。